恋するマジックアワー
「いや。さっきすっげぇ騒ぎになってたから」
「あー……、あはは」
心配、してくれたのか。
「大丈夫大丈夫! わたしの方は。それよりも心配なのは向こうだよ」
一瞬牧野は「向こう?」と首を傾げ、それから納得したように「ああ、三嶋か」と眉を下げた。
「アイツ、惚れっぽいから。可愛いと思ったらすぐ告んだよ」
「なにそのチャラい感じぃ」
隣にいた留美子が、また不機嫌になる。
そんな留美子を見て、わたしは牧野を見上げた。
わたしの視線に気付いた牧野は、ニコッと笑うとその分厚い手を頭に乗せてきた。
「ま。立ち直り早いから、気にすんな」
「……うん」
「じゃあな」
「ばいばーい」
この寒い中、まるで5月の風のように爽やかに去って行く背中を見送っていると、留美子がわたしの顔を覗き込んできた。
「海ちゃん」
「ん?」
「翔の事、ほんとにもう好きじゃない?」
「え?」
またまたキョトンとなるわたし。
そんなわたしに留美子は腕組みをして、小さくため息をついた。
「アイツ、肝心なところで一歩遅いんだよねぇ」
プウッと頬を膨らませた留美子は、ジロリとわたしを睨んで、それからパッと笑顔を見せた。
「気を取り直して、ゴー!」
「え?……わ、ちょ……留美子」