恋するマジックアワー
「あ」
「ん?」
すっかりパンケーキを平らげた留美子が、顔を上げた。
窓の外を見つめるわたしの視線を追って、留美子が少し身を乗り出して同じように「あ」とつぶやいた。
「あれ……ってもしかして、沙原っち?」
「そうみたい」
「へえ~。沙原っちって学校の外だと別人みたいだね」
人の波に乗って歩く洸さんの手には、たくさんの紙袋を下げていた。
ひっきりなしに行き交う人達の中、一瞬見ただけで洸さんだとわかった自分に驚いていると、留美子が紅茶を飲みながら言った。
「ひとりかな」
「…………」
……洸さんの姿、久しぶりに見た。
元気そうだな。
あったかそうなアウターに身を包む洸さん。
グルグル巻きにしたマフラーで顔が半分隠れてしまってるけど。
歩くたびに揺れる前髪が、すごく可愛いと思えてしまった。
こうやって、街中で見つけると大人の男の人なんだなって思う。
「行っといでよ」
留美子の言葉に一気に意識が引き戻される。
「買うものある程度決まったし。 付き合ってくれてありがとう。海ちゃんは沙原っちの後追いな?」
「え……いいよ、そんなの」
「ダメダメ。もうすぐクリスマスなんだよ?せっかく好きなヒトが同じ家にいるのに、ちゃんと誘わないとダメだからね」
「……」
今週末に迫ったクリスマス、なにも予定を入れていなかったわたしの事、留美子はわかってたんだ。
留美子にはお見通し。
恥ずかしくて、それと同時に嬉しくて。
わたしは眉を下げた。
「今日はわたしのおごりっ。付き合ってもらったんだもん。これくらいさせて?」
「え?でも」
「ホラホラ!のんびりしてると見失っちゃうよ? 海ちゃん、ファイトぉ」
おお!っと小さくこぶしを作って見せた留美子。
わたしは急かされるように席をたつと、カバンを掴んでお店の出口に向かった。
留美子って時々物凄く、頼もしい。
「ありがとう、留美子!また明日ね」
「うん。メールするね~」
カランコロン!
優しい鈴の音を背中に聞いて、わたしは冷たい街に飛び出した。