恋するマジックアワー

「あ、あのね?洸さん」

「ん?」


立ち上る湯気の向こう側で、洸さんが視線だけをわたしに向けた。


「……わたしが洸さんと一緒に住んでるの、留美子に話した」

「……」

「でも、大丈夫だよ?留美子、親友だし。黙っててくれる」


慌てて付け足すと、洸さんは「はは」と小さく笑った。


「まあ、平気でしょ。あの子は海ちゃんの傷つくことはしないだろうからね」


楽しそうにそう言って、カップをガラスのローテーブルに置いた。


お見通しか……。
言っちゃった事、ちょっぴり後悔してたぶん、拍子抜け。


なぁーんだ。
怒らないんだ。

もう一度コクリとココアを飲みこむと、今度は甘い香りに包まれた。

「いい友達持ったな、海ちゃん」

「わっ」


洸さんはそう言って、カップを持っていた手で、わたしの髪をクシャリとかき混ぜた。

グシャグシャと乱暴に撫でられて、長い髪がハラハラと目の前に落ちてくる。


「ちょ、やめてよね」

「わはっ。おお、髪サラサラ」



な……、な……。

洸さんは少し体を傾けるとわたしの髪を、その指に絡め取った。

< 98 / 194 >

この作品をシェア

pagetop