恋するマジックアワー

長い指。
華奢だけど、節々がゴツゴツしてるのがわかる。


頭の中、音がする。

警報が鳴ってる




「シャンプー、俺のと違う?」

「……え?……あ、うん」



低くて、ハスキーな声。

近くにいるから?

だから、そんな声で言うの?


まるで耳元で 囁くみたいな……
甘ったるいココアみたいな声色。


「ふぅん」



ソファに深く腰を沈めた洸さんの視線が、わたしよりも低い位置にある。

いつも見ない角度に、目が奪われる。


お風呂上りの洸さん。

髪、乾いてないじゃん……。

小さな光だけのリビングは、洸さんの横顔をやたら妖艶に映す。



ねえ、洸さん
早く手、離して……

じゃないと、どんどん大きくなる。
気付きたくないのに……気付かされちゃう

でも。

わたしのグチャグチャな心の中とは別に、一気に頭の中がクリアになってく。


それはとても鮮明に。
わたしの中に落ちてきた。



「コレ、すげぇ好きなヤツだ」



まるでスローモーション。

洸さんはそう言うと、手のひらにすくった髪をそっと自分の鼻先に近づけた。

わたしを覗き込むように見ると、ふわりと微笑む。
でも次の瞬間には、まるで子供みたいに無邪気な笑顔になるから……。





ああ……ダメだ。

この人、危険。 だって、ホラ。

予感どおり、わたしの心を奪っていく。



好きになっちゃう……。

恋に落ちていく。


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