だから、恋なんて。

「真正面は無理そうだから、ちょっと手を変えようと思ってね」

「はぁ?」

ふふっと可笑しそうに笑ったかと思うと、私がカバンを持つ反対の手を少し強引に取って。

……あろうことか、軽く持ち上げた手の甲に唇をつけた。

「っ、ちょっと!」

ここって職場で、病院で、しかもICUよね!?

ていうか、この人なに?外国育ち?帰国子女とか?

こんなところで何やってんの?ほんとに、信じられない!

慌てて手を振り払うと、そんなことは気にしてないようで。

「予約したからね」

そういってにこっと笑うと、さっさとICUを出ていこうとして、出口付近で電話中の師長に「予約完了しました」なんて挨拶して扉の向こうに姿を消した。

いや、あの、どうしたらいいわけ、この状況…。

完全にパニックになる私が、恐る恐るフロアに目を向けると。

面白いもんを見たとばかりにしたり顔のスタッフや、うんうんと頷きながら拍手なんてしている年配の患者さんがいて。

軽くめまいがする頭を振って、仕事をするためにさっきあのチャラ医者が触れた手を念入りに洗った。

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