だから、恋なんて。
一人暮らし用の冷蔵庫がパンパンになって、残りの野菜は仕方なくシンクに出して。
思いつめたように難しい顔をしてソファに座る千鶴と向かい合うように座る。
どうやらお風呂には入ってきた様子の千鶴は、平安時代のような短い眉を下げる。
どうして歳を取って化粧することが当たり前になると、オンナの眉は短く薄くなってしまうんだろう。
私は元々立派な眉毛じゃなかったけれど、今では立派に平安時代の仲間入りができる。
そんなどうでもいいことを考えている間にも、千鶴は私と目を合わすことなく黙りこんでいて。
「よし、取りあえずはなんか飲もう」
言わないことは聞かない主義を曲げることなく、また冷蔵庫に向かおうとすると、ポツリと千鶴が呟く。
「家出、したのよ」
「え?」
ふぅっと軽く息をついて視線を上げた千鶴は、力なく笑って言った。