だから、恋なんて。

「直人と喧嘩して、家出てきたの」

「そんな…」

「いい歳して何やってんの、って感じでしょ」

きまりが悪そうに苦笑いで言う千鶴は、いつもとは違って力なく肩を落としていて。

ただの喧嘩で家を出てきたのではないことくらい容易にわかる。

「直人さんは、うちにいること知ってるの?」

そりゃあいくら大人だって、顔を合わせてれば喧嘩だってするだろうけど。

千鶴たちに関しては、家を出るほどの喧嘩なんて初めてだろうと思うから。

友達としては、ここは温かく迎えようと思うけれど、旦那様を心配させてしまっては意味がない。

「…うん。美咲とこ行くって飛び出してきたから…」

「そっか…」

それならば、まあ一先ず旦那様には心配かけてないってことだし。

千鶴が結婚してから、こうやって家にくることなんてなかったんだから、こういうのもたまには悪くない気がする。

「よし、オッケー、じゃ仲直りするまでゆっくりしてよ……とりあえず、なんか飲む?」

立ち上がって今度こそ冷蔵庫に向かおうとすると、千鶴が「いい、いい」と言いながら私の肩を押さえて立ち上がる。

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