山神様にお願い


 私が悲惨な過去のバイト生活を思い出してしみじみしていると、今は17歳になって体も大きくなった阪上君が、出来た、とプリントを頭の上に上げた。

「あ、はいはい」

 採点をつけようと立ち上がって近寄り、紙に手を伸ばす。するとそれをヒョイとかわされた。

「ちょっと」

 文句をつけようとすると、阪上君はニヤニヤ笑って言う。

「センセー、僕と約束して」

「はい?」

「その居酒屋で人に言えないことしないって、僕に約束して」

 ・・・・・・・脱力。

 ああ~・・・疲れる。疲れます、この子の相手するの。

 私は壁に背中をぐったりと押し付けて、だるーく口を開いた。

「あのね、阪上君。居酒屋というのは飲食をお客さんに提供する場所でね、君が考えるようなことをする場所ではないんです」

 絶対、ろくでもないこと考えてたに違いない。ナンでしょうか、人に言えないことって。

「だって男ばかりなんでしょ?」

「え?そりゃあ働いているのも男性が多いとは思うけど」

「だったら気をつけてよね、センセー!皆心の中では絶対その体を狙ってるんだから!」






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