山神様にお願い


 ないないないないない。心の中でお経を唱えた。精神統一するのよ、ひばり。この子の常識は世界の非常識なのよ!

「・・・・・・例えそうだとしても、普通の大人は職場でそんなこと見せないからね」

 いいからさっさと渡しなさい!パッとプリントを奪取する。

 あー、全くこの子は。どうにかならないのだろうか。

 外見はどちらかというと爽やかで、清潔感もある男の子なのに。私には悪魔にしか見えないが、彼の両親とも美男美女で、彼も普通にしてれば整っている顔をしている。きっと黙ってたら高校でももてると思うのだけど・・・。

 彼女いないの?と聞くと、彼女はいない、という微妙な返事が返ってきて、怖くて突っ込めなかったのだった。

 この子の発音には、それと判る含みがあった。

 彼女「は」って。・・・じゃあ、何だったらいるの、とは、さすがに・・・。

「大体どーしてバイト増やすの、センセー?カテキョだけじゃ足りないの?」

 私が決めた部屋の真ん中にある境界線ギリギリに立って、阪上君が言う。

 私は答えあわせをしながら答えた。

「まあ暇だし・・・仕送りして貰ってる身分だから、時間があるなら働いて稼がないとね。家だって別に裕福じゃないし」

 彼はふーん、と呟く。丁度採点が終わって振り返ると、折角整った顔をわざわざブサイクに歪ませている阪上君がいた。

「あらー、可愛い顔」

 棒読みで言ってあげると、ふんと鼻から息を出す。


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