山神様にお願い


 離れてください~!!シートがこれ以上先にはなくて、熱い砂に手をつけられずにそう懸命に叫んだ。

「シカはフリーになったんだろ?ならもう彼氏に遠慮することないでしょ。他の野郎を名前や愛称で呼んでも誰も怒らないよー」

「いーや、いやいやいや、そういう問題ではないんです!愛称や名前が悪いのではなくて、彼氏とかフリーとかでもなくて、店長は店長でしょって言ってるんです~!!」

 これ以上下がれないのに、店長はまだぐいぐいと近寄ってくる。ぎゃああああ~!ツルさーん!早く戻ってきて~!ウマ君でもいいよ~!

 逆光で影になった店長の口元が大きく緩むのが判った。

「・・・本当に真面目だなー。ちょっと珍しいくらいだねー、シカ坊」

「何でもいいですから退いて下さい~!」

「嫌なら逃げな」

「え」

 両手を私の体の横にドンとついて、やたらと近くで夕波店長がにっこりと笑った。

「――――――――」

 彼の細めた瞳の中に、私がうつっているのが見える。

「・・・嫌なんだったら、逃げたらいい。別に檻の中ってわけじゃない。抜け出して、海で泳いでこいよ、シカ」

「・・・て」

「海の家にはツルもウマもいるし、車に逃げれば龍さんもいるぞ」

「てん―――――――」


< 113 / 431 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop