山神様にお願い
離れてください~!!シートがこれ以上先にはなくて、熱い砂に手をつけられずにそう懸命に叫んだ。
「シカはフリーになったんだろ?ならもう彼氏に遠慮することないでしょ。他の野郎を名前や愛称で呼んでも誰も怒らないよー」
「いーや、いやいやいや、そういう問題ではないんです!愛称や名前が悪いのではなくて、彼氏とかフリーとかでもなくて、店長は店長でしょって言ってるんです~!!」
これ以上下がれないのに、店長はまだぐいぐいと近寄ってくる。ぎゃああああ~!ツルさーん!早く戻ってきて~!ウマ君でもいいよ~!
逆光で影になった店長の口元が大きく緩むのが判った。
「・・・本当に真面目だなー。ちょっと珍しいくらいだねー、シカ坊」
「何でもいいですから退いて下さい~!」
「嫌なら逃げな」
「え」
両手を私の体の横にドンとついて、やたらと近くで夕波店長がにっこりと笑った。
「――――――――」
彼の細めた瞳の中に、私がうつっているのが見える。
「・・・嫌なんだったら、逃げたらいい。別に檻の中ってわけじゃない。抜け出して、海で泳いでこいよ、シカ」
「・・・て」
「海の家にはツルもウマもいるし、車に逃げれば龍さんもいるぞ」
「てん―――――――」