山神様にお願い


 咄嗟に答えが出ない私から視線を外して、その男の人はカウンターで料理をつくる龍さんに向かって大声できいた。

「なあって!トラさん、いるのって聞いてんだよー」

 龍さんが顔を上げた。一瞬目を細めたけど、接客業の笑顔で応える。

「あ、夕波ですか?今晩は入ってないんですよ、すみません」

「え、店の休み以外いつもいるって言ってたけどなあ~」

「ええ、いつもはそうなんですけど、急な用事が入ったんで」

 ツルさんがホールに出てきて、こっちを見ている。ウマ君も奥の座敷の世話をしながら振り返った。

 ふーん、そう言って、ヤンキーみたいな崩れた格好をした兄ちゃんは面白くなさそうな顔をする。

 どうするんだろ。店長に用事だったのかな?ってことは、もう帰ってくれるのかな。私はそう期待してみていた。

 だけど、彼らは店で飲むことにしたらしい。まあ、いっか?そう仲間達と頷きあって、案内した席にぞろぞろと移動して、大きな態度で座った。

「狭いな~」

「お前チビだから大丈夫っしょ!」

 げらげらと大声で笑う。

 私はこっそりとため息をつく。

 何か、態度悪い人たちだな~・・・。そう思って気が重かった。注文するときに弄られたらどうしよう・・・。うーん、頑張らなきゃ、私。

「シカちゃん、突き出しとおしぼり宜しく」

 私の肩を叩いて、ツルさんがそういう。そしてさっさと注文を聞きにいってくれた。


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