山神様にお願い


 さすがにツルさんは慣れた対応で、彼らの不躾な視線や絡みも綺麗に捌きながら注文を聞いている。

 尊敬だ。凄い。後でお礼を言わなくちゃ。

 飲み出したら、彼らは内輪で楽しみだした。私は裏口の前でウマ君と胸を撫で下ろす。ああ、良かった。変に絡まれなくて・・・。

「虎さんがいない日に限って、こういうことってあるんですね~」

 ウマ君が小声でそういうのに、私は頷いた。

「本当ね。いつもいるのに、ちょっと珍しくいない日にくるなんて・・・。って、ねえ、あの人たち本当に店長のお友達かな?」

「いやあ~、どうでしょうね・・・。友達、とは思えない・・・思いたくないですけどね。まあ虎さん色んな知り合いがいそうだしなあ~」

 山神の虎は、正体不明だもんね、そう言って二人でため息をついた。


 今晩の山神には、店長である虎がいなかった。

 夕方、急に私に電話がきて、店に入ってくれないかと言われたので、驚いたのだ。

 電話は龍さんからで、虎を可愛がってくれてた身内が危篤状態らしくて、あいつ里帰りするんだ、ってことだった。

 暇な私は勿論大丈夫だった。

 それで6時から飛び入りしたのだけど―――――――――

 親戚の叔父さんだか叔母さんだかが危篤状態だってことで、面会しに店長が実家に戻った日に限って、こんなお客さん達・・・。うわ~、何事もなく帰ってくれますように~。

 私としてはそう祈るしかない。


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