山神様にお願い
だって、今晩は普段接客はあまりしない切れやすい板前の龍さんと、新人の私と私より若干はマシってほどのウマ君。こういう時に頼りになるのがパーフェクトアルバイターのツルさんだけとは、何とも心元ないではないの。
普通であれば、店長がいなくても勿論大丈夫だ。だけどこういうイレギュラーなことが起こったとき、その存在はいきなり大きく感じる。
今までも困ったなあと思うようなお客さんはいるにはいたのだ。だけど店長がいつも、明るく軽く、上手に相手をして帰ってもらったり、入店を拒否したりしていたのだった。
それに慣れてると言っても、ツルさんだって身分はバイトで、25歳の女性なのだ。いざという時どうしたら、そう考えて、身が縮まる思いだった。
彼らの話す言葉は下品で、しかも大声。聞こえてくるのがすでに苦痛だった。
あの女が股開いてどーの、あいつはパクッたもんを飛ばしたからどーの。誰かが地図書きやがって、おお、マジでか、オマエそれでトンだわけ?まったくふざけるなっつーんだよ・・・・。
半分も意味が判らなかったけど、胸のところがムカムカした。
カウンターの男性客が嫌そうな顔をして会計を頼む。龍さんはそのお客さんに謝りながら、既に不機嫌になっている模様。
「ありがとうございました~!」
ツルさんと私で外までお見送りして、再度頭を下げる。・・・もう、早く帰らないかな・・・。
時計、全然すすまないんだもん。
そして、恐れていたことが起きたのだ。