山神様にお願い
う、うわあ~・・・私は額から冷や汗が伝うのを感じた。
唯一残っていた常連のお客さんカップルも、体を縮こませている。やばいことない?これ。ああ、どうしたら――――――――――
「頼みますよ、お客さん。ツケはうちはしないんですよ。夕波も今晩はいないんで、話も判りませんし、今日のところは勘弁してくださいよ」
言いながら龍さんがカウンターからゆっくりと出てくる。
それはハッキリと判るくらいに、不機嫌そうだった。
・・・怒ってるよ、龍さんが~!私は焦ってウマ君を振り返る。だけど彼も、口を開いたままで怒れる龍さんをじっと見ていた。
龍さんは、背が高い。それに肩幅もあって、体格がよかった。彼が頭を縛っていたタオルを取る。照明にキラリと光る、茶色の髪と青いピアス。
威嚇している、そうハッキリと判る態度だった。
ツルさんが慌てて彼らと龍さんの間に割り込んだ。
「あ、あの!もうビールのお代わりは結構ですか?注文締めましょうか?」
ニコニコと一生懸命微笑むツルさんに、彼らの内の、一番後ろでまだ椅子に座ったままだった一人が言った。
「タダだっつーなら、飲んでやってもいいけどよお」
他の3人がそれを聞いてあはははは!と同時に笑う。
あ、最悪。
龍さんの背中から炎が立ち上るのが見えたようだった。
「ツル、どけ」
低い声で言った龍さんが、自分の前に立つツルさんの肩を掴んだ。やば、そう言ってウマ君が二人のもとへすっ飛んでいく。