山神様にお願い


 ツルさんが首を振る。

「どけよ、ツル。・・・こら、瞳!」

「名前で呼ばないで」

 ツルさんも抑えた低い声で、振り返らずに言った。

「ダメよ、龍さん。ここは居酒屋で、あなたの職場で、この人達はお客様よ、抑えなきゃ。今暴れて、あとでトラさんに叱られてもしらないから」

「龍さん!頼みますから抑えて下さい!」

 ウマ君も必死で説得にかかる。私だけがどうしていいのか判らずに、お盆を抱えたままでオロオロしていた。

「気にいらねー面してやがんなあ、ああ?」

 一人が懲りずに龍さんをからかいだす。龍さんの体を自分の体で止めたままで、ツルさんが笑顔を消して言った。

「・・・他のお客様のご迷惑ですから、今日はお引取り下さい。これ以上暴言をはくようなら警察に通報します」

 毅然とした態度だった。こんな時なのに、私は尊敬モードに突入してツルさんを見詰める。

 ゲラゲラと馬鹿笑いをしていた兄ちゃん達も、そのツルさんの声で静まった。

 龍さんと睨みあっている先頭の男の肩を、後ろの男がニヤニヤしたままで叩く。

「なあ、もういいじゃねえか。払ってやろうぜー、折角いい気分なのに、ポリはごめんだぜ~」

「おら、これでいいだろうがよ」

 その隣の男がポケットから万札を出した。そしてそれを、ほーらよ!といって天井に放り投げる。


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