山神様にお願い
「てっめえらに言う礼なんかあるかああああっ!!」
ついに切れた龍さんが、罵声と共に自分の目の前にいる男をその長い足で蹴り飛ばしたのだ。
バッチリその瞬間を見てしまった私は口を開けて凝固する。
結構な音がして、蹴られた彼はテーブルまでぶっ飛んで派手にぶつかった。
「んだ、野郎!!」
「ああ!?」
興奮した彼らが一気に臨戦態勢に入る。ぶつかられてゆれたテーブルからお皿が落ち、凄い音を立てて割れた。
「もうっ!」
ツルさんが裏口に向かって走り、残っているカップルを急きたてた。
「危ないですから早く!」
「は、はい!」
「きゃあああ~っ!」
二人は慌てて鞄を引っつかんで靴を履いた。
店の真ん中では既に乱闘が始まっていて、プロのボクサーを目指したこともあるらしい山神の龍が暴れまくっていた。
私は恐怖で体が固まっていたけど、よく見ると被害をうけているのはお兄さん達の方だった。向こうの方が人数は多いけど、彼らは酔っ払いだ。
次々と龍さんに投げ飛ばされてはテーブルごと倒れる。カップルの女性があげる悲鳴と、電話に向かって叫ぶウマ君の声、彼らの罵声と、龍さんの怒声。
店の中は混乱状態だった。