山神様にお願い
あちらは男4人で、皆小柄だけども細長い店内では自由が利かない。龍さんは怒りに任せてやりたい放題しているみたいだった。
私は耳を塞いでカウンターの中にしゃがみ込む。なんせお皿やコップが飛んでくるのだ!下手に頭をあげたらジョッキか何かが真っ直ぐ飛んで来そうで恐ろしい。
「ちょっと何でこんなことに~!!」
振り返ると、後ろから、裏口にカップルを避難させて戻ってきたツルさんが叫びながら近づいてくる。
「ツ、ツルさああああ~ん!大丈夫ですかああああ~っ」
彼女もほとんど匍匐前進だった。
「折角私が耐えてやったのに、龍のバカ男っ!!」
ツルさんも、切れている。両目をキリリと吊り上げて、カウンターの向こう側で暴れている龍さんに向かって呪いの言葉を連発していた。
ガッシャーンと音がして、新たな食器が犠牲になったのが判った。
「きゃーっ!」
音に怯えて縮こまり、悲鳴をあげてしまった。
やだやだやだ!怖い怖い怖い!
私は辛うじて見える壁の端、山神様に向かって両手をあわせて懸命に祈った。
山神様~っ!!怒れる龍を止めてええええええ~っ!!
同じくカウンターの中で寝転んだ状態のウマ君が、悲鳴のような声で叫ぶ。
「どうやって止めたらいいんすか!?」
「もう変な手出ししないほうがいいよウマ君!とにかく自分の身を守って!」
ウマ君にツルさんが叫び返しながら、新聞紙を広げて頭の上に被せている。