山神様にお願い
もう、泣きたい。
その時は必死だったけど、今になって手が震えてきたのだ。凄い音と、男性数人が暴れる光景に。
床や壁にも血が飛んでついている。
・・・ああ、本当に怖かった。わ、私って、今まで平和な世界の住人だったんだなあ!と思った。
シカさんはトラさんに連絡頼みます!そう言ってウマ君は出て行ったけど、危篤の親戚に会いに帰っている店長に伝えてもいいものなのだろうか。
オーナーさんがいくならもういいのでは?そう思ってから、いやいや、と一人で首を振る。
店長は、店長だ。ここの責任者。やはり一報はいれるべきだろう。そして、指示を仰ぐ。
他の人たちは自分達に与えられたことをやっている。私の仕事はこれだ。
そう思って、ボタンを押した。
耳の中でコールが鳴る間、震える体を必死で宥めていた。
『――――――はーい?』
店長の低い声が、受話器から聞こえた。
私は一瞬声が出ずに、ただ目の前の壁を凝視する。割れたお皿を、散らばったガラスの破片を、散乱した椅子や倒れた机を。
『もしもし?おーい』
店長が繰り返す。ハッとして、ようやく私は声を出した。