山神様にお願い


「・・・あ、あの・・・夕波、店長・・・」

『――――――シカ?』

 目を閉じた。

 いきなり襲ってきた感情に、耐えられなかったのだ。

 鼻が詰まって息が出来なかった。口を開いた拍子に、涙が零れたのが判った。


「・・・店長」

『どうした?』

 ゆっくりと、一度息を吸い込んでから、説明した。

 ガラの悪いお客さん達がきたこと。しばらく我慢してたけど、かなり態度が酷かったこと。最後の最後で龍さんが切れてしまったこと。喧嘩で暴れて店の中が酷い状態なこと。警察がきて、皆を連れて行ったこと。ウマ君がオーナーを呼びに行ってるってこと。

 店長はずっと黙って聞いていた。時折相槌を打つ声は静かで、それは店の2階、森で休憩している時みたいに落ち着いた声に聞こえた。

 私は鼻をすすりながら話す。泣いてる場合じゃないし、店長にそれがバレるのも何故か酷く嫌だった。だけど涙が止まらなかったし、声がどうしても鼻声になった。

 話し終えると、店長がゆっくりと言った。

『死人は出てない?』

「は、はい」

『うちの怪我人は龍さんだけ?』

「そうです」

 あらあら・・・、そう、電話の向こうからのんきな声が聞こえた。


< 151 / 431 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop