山神様にお願い
「・・・あ、あの・・・夕波、店長・・・」
『――――――シカ?』
目を閉じた。
いきなり襲ってきた感情に、耐えられなかったのだ。
鼻が詰まって息が出来なかった。口を開いた拍子に、涙が零れたのが判った。
「・・・店長」
『どうした?』
ゆっくりと、一度息を吸い込んでから、説明した。
ガラの悪いお客さん達がきたこと。しばらく我慢してたけど、かなり態度が酷かったこと。最後の最後で龍さんが切れてしまったこと。喧嘩で暴れて店の中が酷い状態なこと。警察がきて、皆を連れて行ったこと。ウマ君がオーナーを呼びに行ってるってこと。
店長はずっと黙って聞いていた。時折相槌を打つ声は静かで、それは店の2階、森で休憩している時みたいに落ち着いた声に聞こえた。
私は鼻をすすりながら話す。泣いてる場合じゃないし、店長にそれがバレるのも何故か酷く嫌だった。だけど涙が止まらなかったし、声がどうしても鼻声になった。
話し終えると、店長がゆっくりと言った。
『死人は出てない?』
「は、はい」
『うちの怪我人は龍さんだけ?』
「そうです」
あらあら・・・、そう、電話の向こうからのんきな声が聞こえた。