山神様にお願い


『龍さんは今晩は帰ってこなさそうだな~。うーん、ま、とにかく、俺そっちに戻るから、シカはもう帰っていいよ』

「え、だって。・・・店長、あの、面会は出来たんですか?そちらも大変な時なんじゃないですか?私、私は別に暇なんで、指示してくださったら、あの―――――」

 わたわたと話すと、店長が遮った。

『シカ坊、一回ゆ~っくりと深呼吸してー』

「へ?は・・」

 ワケ判らなかったけど、ほらほら、と促されて、とにかく言われたように深呼吸を繰り返す。すると、震えていた手が止まった。私は瞬きをしてまた涙を落とす。・・・・あ、震えが止まった・・・。

『大丈夫か?じゃあ聞いてね。・・・えーと、俺の方は大丈夫。ちゃんと会えたし、話もしたし、それに、驚きの生命力で快方に向かってるってことが判ったんだ』

 私は黙って聞きながら、おお、と心の中で声をあげた。それは素晴らしい!

「よ、良かったですね」

『うん。山神さんのお陰かなー』

 ホント有難いわー、と軽ーく言って、店長が続ける。

『で、俺は店長だし、そのバカ供には思い当たる節がある。だから、とりあえず後始末しにそっちへ戻る。車借りて帰るから電車より早いよ。店は保険が降りると思うけどちょっと判らないから、現状維持しときたいんだ。何も片付けないで置いておいて。これからオーナーとツルたちに電話するから、シカは遅くなる前に帰りなさい』

 判った?と聞かれて頷く。それから、あ、見えないのかと気付いて、はい、と返事をした。


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