山神様にお願い


『キャッシャーの鍵と表の鍵だけしめて、いつものところおいといて。裏口は開けっ放しでいいから』

「はい」

『気をつけて帰れよー。もうこれ以上の怪我人や事件はいらないぞー』

 私はちょっとだけ笑った。

「店長も、気をつけてください」

『うん。あ、シカ』

「はい?」

『怖かったんだな、悪かった』

 皆にも謝らなきゃなぁ、そう呟く店長の声が悄気ているように聞こえて、私は慌ててしまう。

「あのっ!あの、大丈夫ですから」

『だって、泣くほどだったんでしょ』

 かーっと顔が熱くなったのが判った。やっぱりバレてたよね!?もう、もう、私ったら!!一人でぶんぶんと片手を振り回して懸命に言い訳する。

「いえ!て、店長の声を聞いたら安心しただけで、ええと、その、別に怪我もしてないし、あのー!大丈夫なんです!」

『・・・必死だな。ま、とりあえず今からちょっとバタバタするから切るね。気をつけて帰るんだぞー』

「はい、お疲れ様です!」 

 うん、と返事が聞こえて電話が切れる。私はカウンターに電話をおいて、倒されていない椅子に腰掛けた。


< 153 / 431 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop