山神様にお願い
「・・・はあ」
全く、何て夜だったんだろう。両手でぺちぺちと頬を叩く。・・・いやあ~、生きていると色んなことがあるんだなあ~・・・・。
一人っきりになって、今は静寂に包まれている店の中で、私はため息を零して天井を見上げる。
凄い経験をしてしまった。
腕でごしごしと目元を拭った。きっとマスカラもとれて、酷い顔をしているはずだけど、一人だからいいや、と思った。
店長の声に安心していた。
もう大丈夫だ、そう思えた。
一人で、荒れた店内で、心細くて、怖かったのが、今は嘘みたいに平常心に戻っている。
凄いなあ~・・・流石、店長さん。
私、泣いちゃったなあ。夕波店長きっとびっくりしただろう。いきなり店から電話がきて、私は泣いているなんて。説明も支離滅裂だったはずだけど、ゆっくりと聞いてくれて、何か、申し訳なかったな・・・。
振り返って奥の壁を見た。
山神様は、無事だった。店長が大切にしている森も無事、とにかく、その点は良かった。
だけど――――――――――
「・・・ちょっと、意地悪じゃあないですか?」
私は山神様に向かってそういう。目があるのかはしらないが、盛大な膨れっ面をしてやった。