山神様にお願い


 店長が居ない間の山神は、前回とは違って何事もなく過ぎて行った。

「俺達、結構うまくやってるよな~」

 ある晩、上がりの一杯を飲みながら龍さんがそう言って、全員で頷いた。

 ツルさんが他の契約バイトを一つ終了したとかで、店長の代わりに週休二日で入っているのだ。それで、私もほぼ毎晩で、ウマ君が週に3日ほど。これで回そうって話になっていた。

 虎が不在で寂しいでしょ~って最初は弄られた私だけど、相手にしなかったら龍さんが先に諦めた。

「面白くない。シカ、強くなったな~」

 って。

 残念でした、人間は成長するんですよ!そう言って私は笑う。

 でも実際のところ、少しずつだけど影響があったのだ。

 それはバイトが終わって一人で帰る、商店街でよく訪れる。

 人がいない商店街を、靴音をたてて歩いている時、ふと、隣に店長がいないことを思い出してハッとするのだ。

 あれ?店長は?そんな気分になって、つい周囲を見回してしまう。

 自分で驚いた。

 だってまだ付き合いだして1ヶ月をすぎた頃なのにって。いつの間にか、あの男性はしっかりと私の毎日に入り込んでしまっているんだわって。

 閉店後の商店街の、隅々の暗がり。そんなものを気にするようになった。閉まったシャッターや、放置された自転車の陰なんかに。

 一人で歩いているんだ、そう思ってしまう。


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