山神様にお願い


「シカは何も聞いてないのか?虎がまだ戻れないってわけとか」

「・・・聞いてません」

 ってか、メールも電話も一回もないです。それは言わなかったけど。だって、そんなこと言ったらこの人達は絶叫しそうなのだ。えええーっ!?って。それで彼氏彼女って言うの!?とか言われそうで。

 龍さんはチラリと電話に視線を飛ばし、ゆっくりと言った。

「今の電話、虎の婚約者だって言ってた」

 ―――――――――――え??

「はあああああ~っ!??」

 唖然としてすぐに反応できない私に代わってツルさんが絶叫する。

「え、え??トラさんって婚約者いるんですかっ!?だってシカちゃんは?!あーんなに執着してべたべたしてたのに、実は婚約者いるとか有り得ないですよ!!」

「いや、俺に言うなよ」

 苦笑した龍さんが突進するツルさんをヒョイとかわした。そして、話しだす。

「夕波ですが、まだ当分そちらには戻れないようですと伝言を頼まれましたって相手が言うからさ、どちらさまですかって聞いたんだよ。そしたら身内のようなものですってこれまた曖昧だからさ~、ヤツから聞いたことはないけど、お姉さんとかいるのかなって思ってそう聞いたら、かーなり渋ってから、私は夕波の婚約者ですってさ」

 ・・・・へえ。私は、その時確かにそう思った。

 ただ、へえ、って。

 だって私は今だに夕波店長のことに関しては何も知らないといっていいほどなのだから。呆然としていてよく判ってなかったのかもしれないけど。


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