山神様にお願い
開店前の準備を終えて、手を洗っていた私はツルさんの声に顔を上げる。
本当にこの人、お金持ちなの?と思うくらいに(失礼だが)どこにでもいるようなオジサンが、裏口から入ってきたところだった。
お金のかかってなさそうな、スーパーで買ったのかと思うような上下の服にくたびれたコート、毛糸の帽子。
だけどこの人は、多数の店を経営する商売の手腕に長けた人らしいんだけど。情もあり、決断力に秀でていると店長から聞いたことがある。
龍さんが仕込みの手を止めて、迎えに出る。
ツルさんと私も横に並んで挨拶をした。
「はいはい、今晩は」
日々立オーナーはよいしょ、と掛け声付きでカウンターの椅子に座る。
そして、龍さんとツルさんと私を見回した。
龍さんがあ、そうだ、と声を出した。
「オーナー初めてでしたよね?この子が鹿倉さんです。春からうちの一員になりました。シカ、日々立オーナー」
「あ、初めまして!鹿倉ひばりです」
私は慌ててお辞儀をする。そうだそうだ、こっちは知っているけど、まだオーナーに挨拶したことはなかったんだった!それを思い出した。
オーナーはニコニコして、はい、宜しくね、と簡単に返して、それから全員を見回した。
「ええとね、今日来たのは、あれだ、ほら、虎のこと」