山神様にお願い
「虎の代わりをしているんだから、時給上げるよ。悪いね、世話かけて。龍のこと見張ってくれな」
ツルさんが苦笑した。
「了解です、ありがとうございます。でもオーナー、龍さんは大丈夫ですよ。それに、ウマ君もシカちゃんもいるし」
うん、とオーナーが目を細めて優しい顔を作った。
「今のメンバーはとても安定していると虎も言ってたな。まあとにかく、そういうことだから、宜しく頼むよ」
龍さんがちょっとムスっとした顔で言った。
「店は大丈夫です。でも―――――――日々立さん、今度虎から電話あったら、直接自分でこっちにもかけるように言って下さいよ。身内なんかに頼むんじゃなくて」
「はいはい、伝えるよ」
オーナーは店が開店すると、龍さんがパッパと作ったつまみでお酒を2合飲んで、静かに帰って行った。
店長、まだ戻らないんだ・・・・。そう思って、やっぱりテンションが上がらない私だった。流石に、今晩はメールくらいしてみようかな、そんなことを考えながらいつもの仕事をする。
「シカちゃん、大丈夫?寂しかったら言ってね、龍さん巻き込んで、ウマ君も呼んで宴会しようよ」
そうツルさんが言ってくれたけど、私はちゃんと笑って言えた。
「大丈夫ですよ~!別に半年も1年も離れているわけでないし」
何となく、心臓の辺りがざわざわとしていた。
だけどそれは無視することにしたのだ。
だって、気付いたって、私にはどうしようもないんだし。
自分でもこの気持ちを説明することなんて出来そうにもないし、って。
私は努めて大きな笑顔を浮かべるようにしていた。