山神様にお願い


 あの、低い声が聞こえた。

 私はふんわりと笑顔になる。あ、やっぱり私、店長の声好きだなあと思って。本当に久しぶりだった、このちょっと掠れることのある低い声を聞いたのは。

「メールつきましたか?皆心配してますよ~」

 私はクッションを引き寄せて、それに抱きつきながら言う。皆、本当に心配しているのだ。だって本人からの電話が一向にないんだもの。

 でもでも、私にはくれたんだ――――――――――――

 思わずくふふと声を出して笑いそうになってしまった。電話があったことでここまで自分が喜ぶとは正直思ってなくて、ちょっと体が浮くような不思議な感覚だった。

『悪い。本当にバタバタしてさ。最初の頃は寝れなかったし、時間が逆転してしまって店の開店時間中に起きてられなかったんだよ』

 ああ、そうだったんだ。でも理由を聞けて安心した。これで皆も笑顔になるはず、そう思って。

「大変だったんですねー」

『うん、もうちょいかかるんだけどねー、まさかこんなにぐちゃぐちゃな状態のまま逝っちゃうとは思ってなくて。まあそれもあの人らしいんだけど。それにやっぱり戻ってきたら、個人的な雑用が山のようにあってさ』

 店長は苦笑しているようだった。その声には確かに若干の疲れを感じたけど、いつもの明るくて大雑把な彼の言い方だった。

 はあー・・・と電話の向こうで大きく息を吐く音。

 そして、落ち着いた店長の声が聞こえた。


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