山神様にお願い
『それで、シカは?ちゃんといい子にしてるか?』
「いい子って何ですか、私はいつも通りですよ」
『他の野郎についてってない?』
「あ、ついていきました」
『―――――・・・おやおや~?』
「だって、おいでって言われたのでハイハイと」
『・・・・相手の氏名と住所、身体的特徴を言え』
私は噴出しそうになるのを堪えて、キョトンとした声を装う。
「はい?ええーっと、一人は茶髪で青い3連ピアスをしている背の高いタレ目のイケメンで、もう一人はシルバーグレーのいい渋さを出しているメガネの男性です」
あははは、と電話の向こうで店長が笑った。その笑い方も久しぶりで、何と一々私は嬉しかった。
『・・・なーんだ、龍さんか。で、もう一人は?シカのお父さんとか?』
「いえ、教授です。ゼミの。論文で毎日大学に行ってます」
私も笑う。くだらない会話が心地よかった。何だか、本当に明るく笑ったのが久しぶりな気がしたほどだった。
おかしいな、私は毎日それなりに楽しく過ごしていたはずなのにな、そう思った。
『あ、シカ――――――――』
店長が何か言いかけた時に、電話の向こうで店長を呼ぶ声が聞こえた。ちょっと待って、そう私に言ってから彼はケータイを耳から離したようで、相手との会話が小さく私の耳まで届く。