山神様にお願い
――――――コタ、もう電話終わる?晩ご飯出来てるって、コタのお母さんが。
――――――ああ判った、終わらせるよ。
――――――仕事の電話なの?
――――――それも兼ねてはいる。
――――――私用なら、そろそろ。ほら、女性を待たせる男はダメよ?
――――――はははは、この私を待たせるなんて、か?先に行ってて。
『ああ、シカ?悪い、そろそろ切るわ~。腹が減って倒れる直前だから』
ちょっとぼーっとしてしまっていた私は、咄嗟に返事が出てこなかった。
『シカ?おーい。・・・・あれ、切れた?』
「あ、は、はいっ!いますいます、すみません!」
ハッとして急いで言葉を押し出す。店長がちょっと驚いたように、大丈夫?と聞いている。
その声がいきなり遠くなったような感じがした。
私はそれでも、平常心を装って言う。
「じゃあ店長、また」
「え?うん―――――」
早く帰ってきてくださいね―――――――――電話が掛かってきたときは、最後は必ずそう言って切ろうと思っていた。