山神様にお願い


 ――――――コタ、もう電話終わる?晩ご飯出来てるって、コタのお母さんが。

 ――――――ああ判った、終わらせるよ。

 ――――――仕事の電話なの?

 ――――――それも兼ねてはいる。

 ――――――私用なら、そろそろ。ほら、女性を待たせる男はダメよ?

 ――――――はははは、この私を待たせるなんて、か?先に行ってて。


『ああ、シカ?悪い、そろそろ切るわ~。腹が減って倒れる直前だから』

 ちょっとぼーっとしてしまっていた私は、咄嗟に返事が出てこなかった。

『シカ?おーい。・・・・あれ、切れた?』

「あ、は、はいっ!いますいます、すみません!」

 ハッとして急いで言葉を押し出す。店長がちょっと驚いたように、大丈夫?と聞いている。

 その声がいきなり遠くなったような感じがした。

 私はそれでも、平常心を装って言う。

「じゃあ店長、また」

「え?うん―――――」

 早く帰ってきてくださいね―――――――――電話が掛かってきたときは、最後は必ずそう言って切ろうと思っていた。


< 227 / 431 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop