山神様にお願い


 愛嬌?これを愛嬌だなんて言ってくれるのは、小泉君だからだよう!人が好く出来ているこの男の子の言うことは、言葉半分で聞いておくべきだよ、ひばり。じーっくりと自分に言い聞かせた。

 私がまだ勝手に凹んで机に突っ伏していると、小泉君が鞄を持ち上げた。

「行くわ。――――――じゃあ、また」

 私はパッと頭を上げて、彼を見上げた。今は穏やかに微笑んでいる、本来は明るくて私を引っ張ってくれていた人。この人の、そばにいた。だけどもういなくて、いつの間にか季節も変わっていた。

 だけど、私は大丈夫だ。

 片手を上げる。

「論文頑張ってね」

「お互いにね」

「うん」

「ひばりの――――――・・・今の彼氏とうまくいくこと、願ってる」

「・・・ありがとう」

「たまには甘えたらいいんだよ。俺が言うのも変な感じだけど・・・。でも、今度の彼氏は大丈夫だよ。かなり好きみたいだしね」

「へ」

 目を丸くした私を見て、小泉君がまた笑う。

「自覚がなくて、そこも相変わらずだよね。でも恋愛している人の顔、してるよ、ちゃんと」

 今度こそ、じゃあねって彼は言う。


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