山神様にお願い


 手を振ったら、彼も返してくれた。そしてあの懐かしいマフラーをまたまいて、図書館の出入り口へ向かっていく。

 その後姿を見ながら、私はぼんやりと思った。

 ああ、これでちゃんと――――――――――――私の大学生活が終わるんだなって。

 彼の笑顔が見たかった。

 それが今、ちゃんと見れて良かったって。

 卒業までに、ちゃんと小泉君と笑えて良かったって。

 微笑んで、机に向き直る。

 綺麗になったみたいだって。やった、何か嬉しい。でも本当に綺麗になったのかな、私。ちょっとは変わったのかな、そんなことを考えた。

 彼と別れて、夕波店長が引っ張ってくれて、それで、私は綺麗になったのだろうか。恋してる人の顔してる、だって・・・。何だろう、それってどんな顔よ。

 ちょっと笑ってしまった。

 その対象の男性とはしばらく会えてないけれど。それで確かにテンションも低めだけど。

 店長とは――――――――――


 ズキン、と胸が痛くなった。


 私は思わずシャツを掴む。

 何か、ざわざわするのだ。店長のことを考えると最近は。やだな、この感じ・・・。ぎゅうっと苦しくなるのだ。


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