山神様にお願い


「ひばりさんが、僕を嫌いって?」

「・・・恋愛対象の男性として見れません、と言ったつもりよ。それと、名前で呼ぶの止めてね」

「お茶も出来ないほどに嫌い?」

「いや、だから、嫌いとかでなくてね―――――――――」

「お願いだよ」

 言いかけた私の言葉を遮って、彼が笑顔を消した。

「センセー、お願い。一度だけでいいから。お茶、しようよ」




 負けた。


 負けました。

 その真剣さに、笑顔を消した真面目な顔に、彼は何の躊躇もなくそんな演技だって出来るはずだと判っていたけど負けました。

 ああ、どうして私はこうなのよ・・・。自分に心の中で突っ込んだけど、既に私は阪上君と近くの喫茶店で向かい合わせになって座っているところだった。

 コーヒーを注文して、私にサーブし、砂糖やミルクまでを彼は長い指でいれてくれる。

 その優雅さに、うーん、阪上家って本当、血筋というか、こういう点の躾が行き届いているわ~、などと田舎出身庶民代表の私は感心してみていた。

 この外見に、この仕草。この子は大層もてるのだろう。なのになぜ、いつまでも私に関わろうとするのだろうか。


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