山神様にお願い
「どうぞ」
「・・・ありがとう」
コーヒーを前にして、制服姿がおかしくなるほどに、阪上君は落ち着いて見えた。
湯気が立ち上り、いい香りが周囲に満ちる。私は一口熱いコーヒーを飲んで、肩の力を抜いた。
「今日はこの辺りに用があったの?学校は?」
ちゃんと学校に行ったのなら、全然方角が違うこの辺りに午後3時にはいれないだろう、そう思って聞くと、阪上君はあはははと笑った。
「センセーもう忘れちゃったの?期末テストだよ、もう」
「あ、そんな時期か!どうだった、テストの出来は?」
「完璧だよ。ちょっとミスがあるかもしれないけど、今回も退屈だった」
忘れていた。そうか、もう12月に入っているのだ。彼の学校は私立で、冬は学校の方針とかで休みが長く、テスト期間も通常の学校よりも早いのだった。
阪上君がカップを持ち上げてコーヒーを飲む。その仕草さえ、彼にはプライドがあるように見えた。人からどう見られるかを計算しているような、そんな印象。コーヒーを飲み下して唇を舐めると、微笑みながら彼は言う。
「この辺りに用事はなかったんだけど、もしかしたら会えるかな~と思って」
「え、誰に?」
彼が、ちょっと呆れた顔をした。
「センセーに決まってるだろ。本当に天然だよね、ボケてるんじゃなくて真剣に聞いてるんだよね、それも」