山神様にお願い


「どうぞ」

「・・・ありがとう」

 コーヒーを前にして、制服姿がおかしくなるほどに、阪上君は落ち着いて見えた。

 湯気が立ち上り、いい香りが周囲に満ちる。私は一口熱いコーヒーを飲んで、肩の力を抜いた。

「今日はこの辺りに用があったの?学校は?」

 ちゃんと学校に行ったのなら、全然方角が違うこの辺りに午後3時にはいれないだろう、そう思って聞くと、阪上君はあはははと笑った。

「センセーもう忘れちゃったの?期末テストだよ、もう」

「あ、そんな時期か!どうだった、テストの出来は?」

「完璧だよ。ちょっとミスがあるかもしれないけど、今回も退屈だった」

 忘れていた。そうか、もう12月に入っているのだ。彼の学校は私立で、冬は学校の方針とかで休みが長く、テスト期間も通常の学校よりも早いのだった。

 阪上君がカップを持ち上げてコーヒーを飲む。その仕草さえ、彼にはプライドがあるように見えた。人からどう見られるかを計算しているような、そんな印象。コーヒーを飲み下して唇を舐めると、微笑みながら彼は言う。

「この辺りに用事はなかったんだけど、もしかしたら会えるかな~と思って」

「え、誰に?」

 彼が、ちょっと呆れた顔をした。

「センセーに決まってるだろ。本当に天然だよね、ボケてるんじゃなくて真剣に聞いてるんだよね、それも」


< 245 / 431 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop