山神様にお願い
ぐっと詰まった。天然ではないと思っていたのですけど。私はその言葉を飲み込んだ。だって確かに、彼が用があるのは私に決まっているのだって思い当たったからだ。だから待ち伏せで、だからお茶に誘われたのだろうし・・・。ああ、私ってバカ。
湯気の向こうで窓の外へ視線を向けて、阪上君は言った。
「・・・最後があんなので嫌だったんだ。だから、会いにきたんだよ。今日は水曜日だし、センセーはゼミの日だったなと思って」
最後。・・・彼と会った最後、この子は泣いていた。あれが嘘泣きかどうかは未だに判らないが、それが嫌だった、といっているのだろう。
私が黙ってみていると、スッと視線を私に戻した。
「泣いて、ダダこねるなんて最悪だよね。自分から子供の振りをしたってセンセーは相手してくれないってちゃんと判ってたつもりだったけど、あの時は凄く悔しかったんだよ。センセーは、お金にも脅しにも泣き落としですら効かないって、よく判りはしたけどね」
・・・ははあ!やっぱりその全部をしたという自覚はあったんだね、君は!私は何度目かのため息をついた。
「私はお金は好きよ。必要だし。だから、君の家庭教師を3年もしたのよ。阪上君はとても賢くて、教科書だけで他に勉強する必要なんてない理解力があるのが判ってたけど、お給料が必要だったから」
彼がまたにーっこりと大きく微笑んだ。
「それに、僕に会いたかったからだって言って」
「違います」
「本当にバイト代だけが目的?」
「・・・あなたのお母様は好きよ。良くして頂いたし」