山神様にお願い


 離れている間、私の恋心はつのり、もう会いたいってことばかりが頭の中を占めていて、それはそれはロマンチックな想像や妄想だって去来していたのだった。

 優しい笑顔の店長が。海辺で寝そべっていた店長が。泣いてる私を電話で慰めてくれた店長が。

 だけど、現実の店長は!!

 かーなり、獣、です・・・・・・。

 ニコニコと優しげな顔をして私を見下ろしている。

 私は草の上にしゃがみこんだままで、その彼を見上げている。

 だけど、会えた・・・・。

 ようやく落ち着いて、そう認識した。目の前に彼がいる。大学まで会いにきてくれたんだ、そう思ったら、泣けてきそうになった。

「・・・お帰りなさい」

 そう呟いた。私、まだ言ってなかったって思って。

 店長は目を細めて微笑んだまま、私に手を差し出した。

「はい、ただいま」

 うふふ、と声が漏れた。それが自分が出した笑い声だと気付くのに、時間がかかった。

 私は笑っていた。でも視界はぼやけて滲む。笑っているのに、泣いていた。ちょっと不思議な体験だった。何が何だか、あららら、私ったら・・・そう思っていた。

 零れた涙が通ったあとの肌が、風に触れてひんやりと温度を失う。


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