山神様にお願い
だけど、と話は続く。
自分のことをよく見てくれていた人もいたんだって。それが、この前に亡くなってしまった女性だそうだ。
その女性は片山さんという。夕波店長のお母さんの幼馴染で親友の人だった。
彼女は事故で、自分の息子を幼少時代に亡くしていた。それもあってか、近くに住むシングルマザーになった夕波親子のところへきて、育児や家事の手伝いをしてくれていたらしい。
俺には二人の母親がいるのと同じだったんだ、って店長が笑う。毎日とはいかないけど、暇を見つけては来てくれていた。母親が遅くなる日には片山さんが来て、寝るまで一緒にいてくれた。叱って、甘えさせてくれた。
だから、その頃から山へ行くのが減ったんだって。そんな必要はなくなったから。泣きたければ、片山さんはいつでも抱きしめてくれたし、そもそももう既に慣れてしまっていて、泣くようなこともなくなっていた。
だけど、そう言って、店長は口元を自嘲気味に歪める。
だけど、中学で道をそれてしまったって。ちょっとばかり悪い友達が出来て、彼はその世界へのめり込んだ。決められたことを破ること、規則に従わないこと、自分の決めた格好いい世界にだけに属すること、それが彼に安心感を与えた。憧れた先輩が学校きっての問題児だったってこともあるらしく、彼に近づこうとどんどん普通の生活を切り捨てていったのだって。
欲しいものを手に入れる為に、イライラを解消するために、喧嘩もしまくったって。
「・・・それで一人前になっていたような気になっていたんだ」
「一人前?」
「そう。・・・俺はもう一人で何でも出来るって。仲間がいる、金だって稼げるし、無ければある所から盗めばいい。必要なものは自力で手にいれられるって」