山神様にお願い
で、結局は母親と片山さんに約束したんだ。
彼女のことは好きにはならない。元々そんな気は微塵もないし、別にヤクザになりたいとは思ってなし。ただ、好きな人と結婚したいっていう彼女の助けになってやれるし、片山さんの元ダンナさんも助かるんでしょ?って。
悪いことをしてきた。その罪滅ぼしのつもりではない、だけど、たまには人のために何かしたいんだよって。
だから、娘には手を出さない。指一本触れない。結婚もしない。あくまでも婚約で終わる。そして俺は、この町を出るよって。
卒業したらこの町を出る。そして都会で働く。だからあと2年は巻き込まれることを許してくれって。
母親も片山さんも散々泣かせて了解して貰った。
でも本当に長くなかったんだ。結局組長は、その半年後に亡くなった。亡くなってしまえば娘が相続を放棄して、父親の愛人であった母親の姓になったから、別の優秀な組頭が後を継いだんだ。そこで、片山さんの元ダンナからは、ありがとうって礼を言われたよ。娘からも。もう、自由よって。
「・・・で、どうしてそこで婚約破棄してなかったんですか?」
「うーん、それはまた別の話になるんだけど~・・・」
「聞きたいです!」
「・・・へいへい」
店長はため息を吐くと、深呼吸をしてまた話出す。
娘は、自由になった。だけどそれは、彼女にとっては危険なことだった。なぜなら、娘は結構な美人で、組の中にはお嬢さんに憧れている野郎もたくさんいたらしいんだな。