山神様にお願い
無視でいいって言われたんだから、そうしよう!それが一番今はストレスがたまらないだろうし。
それに今晩山神にいけば、きっとまた暇な獣達が店長にその話をするはずだ。その時に何て言うかを聞いておこうっと。
もう嫌なことは考えないぞ。少なくとも仕事の時間までは。そう思って一人で頷く。
だって、私には、好きな人が戻って来てくれたんだから。
テーブルを拭きながらニコニコしてしまった。
昨日からのたくさんのことを、暫くは一人で思い出しては照れて転がっていよう。そしてこの嬉しい気持ちに十分すぎるくらいに浸っていようっと―――――――
でも、山神ではそんな話は出なかったのだ。
私が8時に出勤すると、あまりにも久しぶりの「山神の光景」だった。つまり、カウンターの中でタオルで頭を縛った龍さんが汗を垂らしながら料理をじゃかじゃか作っていて、ホール内をツルさんがいきいきと動き回っていて、ホールとキッチンの間で店長が笑いながらドリンクを作っていた。
おはようございまーす、そう声を掛けて鞄をしまい、顔を上げたところで少しだけ、私は止まってその愛しい風景をじっくりと眺める。
・・・ああ、いいなあ。
そう思ったのだ。
いいなあ、やっぱり、これでこそ、山神だよね、って。欠けていたものがやっと埋まったのだ、と思った。この光景には、この人たち全員が必要だ。私はそう考えて嬉しく笑った。