山神様にお願い
しかも、その日はお客さんとしてウマ君が来ていた。それも彼女と一緒に。トラさんが戻ってきたって聞いたんで、デートの途中に寄りました~って、裏口から顔を覗かせたらしい。
勿論、彼女もろとも店の中に引っ張り込まれ、このカップルの支払いは龍さん持ちだ、いや虎持ちだ、と上司二人が合戦をしている間にツルさんに歓待を受けたらしい。
ウマ君の彼女はふんわりとした優しい雰囲気を持った女子大生で、ウマ君より更に一年下ということだった。つまり、大学2回生。お酒に弱いらしく、一杯だけにしてあとはウーロン茶を飲んでいたけど、よく笑う可愛い子だった。
いつものハキハキした雰囲気が消えたウマ君は、穏やかな表情で笑っていて、見ているこっちまで幸せな気持ちになるカップルだった。
何か、可愛い!!みたいな、ああいうの。
私が来て先発のツルさんが賄いタイムに入る。龍さんからご飯ののったお盆を渡されて、私の後ろを通る時に彼女はぼそっと言った。
「―――――――あっちもこっちもカップルばかりよ、今日は!」
振り向いた私の目には微笑むツルさん。チラリと店長を見て、それから私にウィンクした。
「良かったね、シカちゃん。婚約者のこと聞いたわ。これで改めて、トラさんはシカちゃんのものね」
「へっ・・・いや、あの~。私の、もの、なんかでは・・・」
しどろもどろで返答すると、あはははと笑いながら森へ上がっていってしまった。
私は少々赤面した状態で、龍さんが出した料理を運ぶ。もうからかわれ体質なんだって断定するほうがいいかも、などと思いながら。
だって上司二人が揃ったところで早速からかい合戦だったのだ。