山神様にお願い
「―――――――阪上君」
私はハッとして、動きを止める。
駅前だった。
これからスーパーでここ2,3日分の買い物をしようと思っていたところだった。
一緒にいた夕波店長がちょっとトイレっていなくなっている時。するりと人ごみの中から姿を現して、いつの間にやら阪上君は目の前に立っていた。
相変わらずの綺麗な顔で、ニコニコしている。
私は、おいおい忘れた頃に来たなあ!と思いながら、メールで悪戯されたときの騒動を思い出して、遅ればせながら怒りが復活してきた。
鞄をきつく握り締めて、私はキッと彼を睨みつける。
「よく私の前に来れたわね、阪上君!あなたいい加減にしなさいよ!勝手に人のものを盗っちゃダメって親御さんに――――――――――」
「教えられなかったの!?でしょ、センセー。口癖だよね、それ。でもちゃんと言われてたよ、母さんにね。僕は守らなかったけど」
遮られてさらっとそう告げられる。私は唇をかみ締めて更に睨みつけた。
クソガキ!!こんな、店長がいないときに限って――――――――-もう、どうしよう、一発くらいひっぱたいてみる?
がるるると唸り声を上げそうな私を見て、阪上君は苦笑した。
「噛み付かないでよ、センセーまで。僕謝りにきたんだから」
「へ?」
「この前の悪戯、ごめんね。センセーを困らせたかったんだよ。メールの中に阪上八雲と結婚します、って入れなかっただけ、まだマシだったでしょ?」