山神様にお願い
阪上君は嬉しそうな顔をしていた。きっと、店長が言った通りなんだろう。私はまさしくショックを受けていて、それで店長に対して恋愛感情が薄れてくれればって阪上君が考えたという、そういう事なんだろう。だけど店長は、そこであははは~と笑ったのだ。
あの、あけすけで軽やかな笑い声だった。
通りすがりの人が、チラチラと店長を見ているのに気がついた。駅前の雑踏で、何やら笑いまくっている人。
意味が判らず私は店長を凝視する。視界の端で、阪上君が笑顔を消したのが判った。
「・・・笑うなんて、余裕だね。さすがオトナの男」
阪上君の暗い声が言った。それにまだ笑い声を出しながら、嬉しそうな顔で店長は言った。
「判ってないんだな、君はまだ。――――――――本気の恋愛ってそんなもんじゃないんだ」
時が止まったようだった。
夕波店長の声は低くてしかも小さかったけど、二人とも、ちゃんと聞こえた。聞こえてしまった。
「シカが、俺がしたことを許せないと思うかどうかは知らない。だけどもその償いを俺は出来るし、それでもっと仲良くなることだって出来る。インスタントの恋愛しかしてない君には、きっとまだ判らないと思うんだけどね」
「・・・センセーは許さないかもよ?」
店長はうーん?と首を傾げた。
「どうかな・・・。俺は大丈夫だと思うけどね。このことで不利になるのは君一人だよ。判ってると思うけど、彼女は君に恋愛感情を抱くことが皆無になったはずだしねえ」