山神様にお願い


「卒業旅行か。まだ、若いんだよなあ~・・・シカって」

「店長だっておじさんとは言えない年齢でしょ」

 そうかもだけど~、そう言いながらそのデカイ体でごろごろとベッドの上を転がっている。

 全く、もう。

 私は放っておくことにして、ご飯を作るためにキッチンへ行く。一人暮らしでも小さなキッチンは、二人分のご飯を作るのには更に小さく感じる。結構毎回苦労してご飯を作っていた。

 うーん、大きな台所が欲しい。

 でもそうか、会社に入ったら、私はここから引っ越すし、次の部屋の台所をもうちょっと大きくすれば――――――――――――そう考えて、ハッとした。

 まだ言ってなかったことに気がついたのだ。

 来年の春、私は正社員で会社に入る。だから2月までしか入れませんって言って山神には雇ってもらった。

 だからそのまま辞めるつもりでいたし、店長は私が2月までって言ったことすら忘れていたのだから、就職先がどこの会社で、その所在地がどこか、なんて聞かれていないのだ。

 私も山神に行ってからは色々あって、あったなんてどころじゃなくありすぎて、そんなことを話するのをすっかり忘れていた。

 そしてそのままで店長とは恋人同士になってしまったのだ。

 だけど、だけど――――――――――――

 3月の大学の卒業式が終わったら、私はこの町から出て行く。


 それもまだ、言ってなかった。



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