山神様にお願い


 しかも。

 私は、それを言えなかったのだ。

 別に黙っている方がいいかな、とか、そこまで付き合いも続かないだろうし、とか、そんなことを思ったわけじゃない。

 言おうとも、何度もしたのだ。

 それに気付いたあの昼間の台所でも、山神で、終わってから皆で飲んでいる時にウマ君が就職の話を振ってくれたときも。今年最後の山神に入って、皆で掃除した時も、店長、私、春にはこの町から出て行くんですって、言おうとはしたのだ。

 でも言えなかったのだった。

 喉のところに固まりが生まれて声を塞がれるみたいだった。

 その話題を出すために、店長って呼びかけると、その後言葉が続かない。うん?って振り返る優しい笑顔をみていたら、どうしても言えないのだ。

 やだやだ~!!だってこれは言わなきゃでしょ!店長は、もしかしなくても私が今の部屋から出勤するんだろうなって思ってそうだし!!

 自分に腹を立てながら山神の年末大掃除に参加した。

 皆で寒い寒いって言いながら店の中全部を拭き掃除している時に、山神様の飾りに目が行く。

 何度も行った。

 その度に、私は心の中で合掌してお願いした。


 山神様、私に勇気を下さいって。


 ちゃんと店長にこれからのことを話す勇気を、私に下さいって。



< 336 / 431 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop