山神様にお願い
小さくて、狭くて濃い、だけど居心地のよい安心出来る世界がそこにはあった。
店長が生きてきたような荒れた時代は、私にはない。
学校はいつだって友達がいて、笑ったりはしゃいだりする場所だったし、暴力とは無縁だった。テストが嫌だ~って嘆いたり、先生を好きになってしまった友達の応援をしたりしていた。
全然違う生き方をしてきた、年上の男の人。
小学校の校門前で私は懐かしい校庭をじっくりと眺める。
誰もいなくて風の吹き通るその校庭には、かつての私が遊んだ遊具が色を変えてまだあった。
――――――――――信用してないわけではない、と思う。
それに、彼が好きだ。それは痛いくらいにハッキリしている。なのにどうして春からの話が私には出来ないのだろうか。どうしてよ、何でなの。
怖い?ううん、怖がることなんて何もないでしょ。彼は優しい。攻撃をしてくる人に対しては容赦ないかもしれないが、その分その力でもって私を守ってくれるだろう。それは恐怖というよりも安心だった。
では何を悩む?
多分、多分―――――――――――自分に自信が、ないだけなんだ。
遠距離になってしまったら、店長と離れてしまうかもしれないって、どこかで思っているんだ、私は。
新しい生活。自分より年上の人たちの集団、仕事をしてお金を稼ぐということ、新人研修、会社の先輩や上司との新しい関係。
それらを体験していくうちに、忙しくて山神のことを忘れちゃったらどうしよう、そんな風に、未来を勝手に暗くして予想しているのかもしれない。