山神様にお願い


 そこに、あの人が居て欲しい。そう思ってるのは私だけかも、そう思ってしまうのだ。

 店長は可愛いって何度も言う。だけど愛し方も抱き方もストレートの欲望がむき出しで、本当に動物みたいなのだ。

 好きだとか、愛してるとか、そんな言葉は聞いていない。そんな言葉を言うか言わないかは大事ではないって、今までは思ってきたはずなのに。

 だけど、聞いてみたいのかもしれない。

 欲しい、とかではなく、好きだ、って。それが、その単純で、でも人間らしい言葉が。

 店長は獣だ。私にはそれが重いのかもしれない。

 もっと話をして、彼がどういう人なのかの理解を深めたい。だけどそう望むことをうまく口に出来ない。そうこうしている内に抱かれてしまって、あれよあれよと言う間にアッチの世界へ行ってしまう。

 そしてまた話が出来なかったなあ、と思うのだ。

 パチンと何かが弾ける音がした。

 私はハッとして周囲を見回す。

 だけどそこには相変わらず静かな、正月のしんしんとした風景が広がっているだけだった。

 動いてるものは、私しかいない。目にうつる全てのものが、正月の澄んだ光を浴びて静にそこに存在していた。

「・・・あ」

 そうか、判った。

 ああ、今私、判った・・・。


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