山神様にお願い


「うん?何か不都合なことがあるの?」

「い、いえ。でもまだ私、何の話も・・・」

 履歴書すら、出してないのだ。

 そこで店長さんは笑った。

 大きな口で、あははは、って。私は驚いてちょっと身を引く。えらくあけすけな無防備な笑い方をする人だ。あれ?今の、どこが笑うところだったんだろ、そう思って。

 指でこめかみをカリカリと掻いて、店長さんが言う。

「条件ってこと?そうだね、こっちの条件はバイト募集の紙に書いてあるので全部。居酒屋のアルバイト募集、内容は厨房とホール、調理以外の皿洗いから注文ききまで全部だね。うちは小さな店で、皆が殆ど全部やるんだ。夕方5時から夜の12時までで、時給制。それが大丈夫だから、応募したんだよね?」

 細めの瞳を更に細めて私を覗き込むようにした。黒髪が一房額に落ちる。色白に細目。なんか・・・狐みたいな印象のある男性だな。

 私はそう思いながら、コクンと頷いた。

「とすると、君の条件は、一体何?」

「は、ええとー・・・」

 勢いに押されながらも、私は一度深く呼吸をした。

 2月からアルバイトを探し出して、この店で14店目なのだ。今までのところで断られてきた理由は言わなければ。ああ、でも折角受け入れてくれるっていってるのにおじゃんになったら、本気で凹む~・・・。

 でも言わないわけにはいかない。普通は向こうから聞いてくることを聞かれないのだから、言わなければならないだろう。



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