山神様にお願い


 長い黒髪が背中でなびいて、ようやくやってきた夕日に映えている。小さな顔にバランスよく配置された顔のパーツ。白い肌、柔らかそうな唇に浮かべた笑み。さっきまでは気がつかなかったけれど、結構な美少女なのにハッとした。

 だけど自分が今まで関係してきた女の子たちとは全然違った雰囲気があった。真面目そうな、慎重そうな、奥の深そうな雰囲気だ。簡単には手が出せない、透明のバリヤーみたいなものまで感じてしまった。

 一瞬湧きかけた性欲がサラサラと消えていくのが判った。ちょっといいなあって思ったけど、だってヤンキーでもなくヤンキー上がりでもない普通の女子高生なんぞ面倒臭い。何かしてすぐに泣かれたりしたら興ざめだ。それにこの子はヤンキーなどではなく、本物のヤクザと関係があるっぽいし・・・。

 俺は手持ち無沙汰で彼女を振り返る。

「お前、名前は?」

「橋本朔美だよ。マジで知らなかったんだね、クラスメイトなのに!」

「相模組のお嬢様なの?」

 そう、簡単に頷いて、彼女はちらりと笑顔を見せる。血の繋がった父親が相模組の組長なんだよーって。その言い方が、やたらと暗い響きを持って聞こえた。血の繋がった父親って・・・。

 実は俺の「もう一人の母親」化している片山さんのダンナが相模組の副組長をしている。それは勿論知っていたけれど、俺は片山さんのダンナにはあまり会っていなかった。小さなとき、彼らがまだ離婚してなかった時くらい。バイトの斡旋をしてくれた時は、変わりの人間を寄越すと言って待っていたら舎弟が現れたし。大いに荒れている時も、そんな大人の世界には関係なかった。片山さんは俺を極道者に近づけないようにしていたのが判っているし、俺としても大してヤクザに興味がなかったのだ。ただ、ゲン先輩に憧れていただけで。


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