山神様にお願い


 俺が気にせずにメニューを広げていたら、片山さんが彼女に頷いたのに気がついた。で、彼女は話を持ちかけてきたのだ。は?っていうような話を。少なくとも俺も一度は「は?」って思った。一応絶句してみたりもした。実際のところ、さほどショックを受けたわけではなかったのだけれど、一応何か反応しておかないと勝手に話が進みそうな勢いだったからだ。

「夕波君、私の婚約者になって欲しいの。形だけの、でいいからさ」

 橋本朔美はそう言ったのだ。


 イミ ガ ワカリマセン。


 俺は口をつぐんだままで彼女の話を聞く。とりあえず自分が好きな料理の注文だけは忘れずにして、それが来たらガツガツ食べはしたけれど。

 だってお腹が空いていたから。

 話は俺の予想を遥かに越えて、ヤクザ者の抗争の話にまで行っていた。多少混乱したけれども、橋本朔美が言っているのは高校卒業かそれ以後数年間、彼女の婚約者としていればいいってことらしかった。娘に後をついで欲しがっている組長の父親と、継ぎたくない彼女との駆け引きの手段として。

「夕波君には今彼女はいないんでしょう?喧嘩も強くて極道に怯えもないみたいだし。だから・・・その、良かったら私の婚約者を演じて欲しいんだ。パパが亡くなればすぐに解放してあげられると思うから。勿論何らかの報酬は払うし。夕波君が望むもので」

 ヤクザ者の娘の婚約者?それって結構シビアなんじゃねーの?そうは思った。

 思った、けど、でも別のところで「ま、いっか」とも考えていた。


< 419 / 431 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop