山神様にお願い


 後に大反対して号泣した二人の母親に言った言葉は、実はその時は考えてなかった。

『俺さ、もう散々悪いことしてきたでしょ。そろそろ何か一つでも、いいことがしたかったんだよ』

『橋本と、それに片山さんの旦那がそれで助かるなら、ま、いっかって』

 そんなこと、その時は思ってなかった。

 俺は無言のままで最後まで注文したご飯を平らげて、そのあと手をつけてない橋本朔美のアイスティーを指差した。

「飲まねーの?貰っていい?」

 え?って驚いた顔で、だけどともかく彼女は頷いた。だからそれを飲み干して。

 で、頷いた。

「わかったー」

 って。

「えっ!?」

 彼女がまだ驚く。ちょっと呆気に取られているようだった。

「え、って何だよ。お前が言ったんだろ?いいよそれで。組長さんが消えるまで、婚約者になればいいんでしょ」

「そうだけど・・・。本当にいいの?相模組に挨拶もいかなきゃだよ?」

「断ったほうがいいのか?」

「そうじゃないけど」

 自分から持ちかけたくせにどうしたらいいか判らないようだった。彼女は眉を寄せて困った顔をしている。

 その時彼女の隣から、野太い笑い声が聞こえた。

「お嬢さん、いいんですよ。コタローがいいっていうんだから。やってもらいましょう」


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