山神様にお願い


 ・トラの御多忙な休日3・「現在、久しぶりの実家で」


 夕波虎太郎28歳。


 マジで片付かない。

 うんざりして俺は小さな居間の床に寝転んだ。昨日から徹夜で色んなことをしていて、ほぼ頭は働いてなかった。

 二人の母親の内の一人、血が繋がっていない片山さん、親愛なる片山愛子が病気で死んで、俺は久しぶりに実家に戻っていた。片山さんの家の片付けのために。

 離婚してから一人になった片山さんは小さな家を借りて一人で住んでいた。住むのは一人でも、近所には親友のうちの母親もいたし、橋本朔美もいた。だから寂しくはなかったようだ。よく3人でご飯を一緒に食べていたそうだし、それぞれと旅行や買い物も楽しんでいたと聞いた。友達と娘のような橋本に世話されて、最後は笑顔で死んでいったらしい。

 体調が悪くなって入退院を繰り返していた時、最後に会ったときにも笑っていた。

「コタ、お帰り」

 って。

 学生時代に比べたらかなりまともになっている俺は、照れずに対応したと思う。ガサガサの痩せた手を握るとほんのり温かくて、少しの間ぼうっとしてしまったのだった。まだ生きてる、その「まだ」がこれほど嬉しく悲しいものだとは、と思って。

 病室で毎日の生活がどんなだとか店の状態だとかを面白おかしく話したら、片山さんはよく笑っていた。

 その明るい笑い声が最後に聞けた声でよかったと心底思っている。


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